【怖い話】田舎の大根さん

中編の怖い話



田舎の大根さん

去年の秋頃だったかな
俺は時々変なものを見るようになった
明らかに人間じゃないんだけど、邪悪なものって感じもしないからその時は放っておいた

そいつはいろんなところに出没した
家のすぐそばだったり、学校の窓から見た風景の中だったり
だいたい明るいうちに見えることが多かった気がする

俺はこっそりそいつを「大根さん」て呼んでた
というのもなんか見た目が真っ白で、人型なんだけど大根みたいな身体から大根みたいな腕やら足やらのパーツが生えてたから
で、俺が見るとぱっと走ってどっかに逃げていってしまう
妙に愛嬌があったから嫌いじゃなかった

ちなみに、俺以外にそんなのは見えてるはずもなかった
当たり前っちゃあたりまえだが
いやマジなんだこれが

以下そいつのことは大根さんとするが
大根さんは先に書いたとおり妙に愛嬌のあるやつだったんだ
悪さしないし、視線向けると勝手に逃げてくしな

最初は俺もびびってたけどいつの間にか自然と探すようになっちゃって
一ヶ月くらいそれが続いた

当時俺はツイッターをやってて、毎日の出来事や趣味についてかなり頻繁にツイットしたりしてた
大根さんを見始めてすぐの頃にそこでうっかりやつのことを喋っちゃったんだよね
あんまり面白がられなかったからそれ以降話題にはしなかったんだけど、ある時

「そういえばこないだの白いお化けどうなりました?」

とリプくれた人がいた
それがNだった

Nは元々友達の友達って感じで、フォローはしたけど特に絡むこともなく放置してたうちの一人だった
俺も「ギャラクシーエンジェルでは俺と同じミントさん推し」くらいの認識くらいしかなかったし

そんな相手に急にリプなんか飛ばされてびっくりしたが、
「あ、最近もちょいちょい見てますよ!でもどうしたんすか突然??」
という返信はできた

N「えーと、ちょっと気になることがあって。それって白くて身体とか手足も大根みたいなんですよね?」

俺「そうだけど」

N「顔は?あった?」

はて、顔なんかまともに見たことない
女子の顔すらまともに見られない俺には当然そんな得体のしれないものの顔面を凝視するという発想はなかったし、第一俺が見た途端に逃げてしまうから顔なんか見る暇もない
その旨を伝えるとNは「そっか、ならいいです ありがとね!」と会話を打ち切った

その日はそれで終わった

数日後Nからのリプが

「俺さん大根さん見たよ!あれ怖いね!?」

「怖い?可愛くね?」

「授業中うちの机めっちゃ覗きこんできたよ…びっくりした…」

怖い?覗きこんできた?
はて、こいつは何を言ってるんだ
大根さんが近くに寄ってくることなんて俺の場合はないしむしろウェルカム
なのにちょっと覗きこまれただけで怖いとは何事だ
割と本気でそう思った

ちなみにこの後わかるがNは女子だった

Nはかなり不安がっていたみたいで、
「できたら今度見に来て欲しいんですけど」と言い出した

聞くところによるとNさんは俺と同級生らしかったがそれらしい人は見たことなかった
コミュ障の俺は少々面食らったが、「今度ね」と曖昧に約束して会話は終わった

Nと会話してからというもの、不思議と俺が大根さんを見ることは減ってしまった
妙なものを見ることがなくなり安心したが、「もしかしてNにうつってしまったんじゃないだろうか」という不安や
秘密の友人を失ったような寂しさもどこかにあった
週に二、三回見てたものが、たとえそれがどんなに異常だったとしても
ぱったり見えなくなってしまったのはなんとなくつらかったんだ

たしかそれから二週間くらい過ぎた頃、またNから連絡があった

「でました、すぐ来て 三組のとこ」

昼飯の途中だったがおれはすぐに走っていった

俺のクラスと三組の教室とは棟が分かれてるから少し時間がかかったが
走って行くとそこに女子生徒が見えた
混みあってた廊下のなかでもその子がNだってのはすぐにわかった

隣に大根さんが立ってたんだ
すげえ真顔のまんま

俺はその時二つの衝撃的な事実に気づいた

大根さんに顔があったのと

Nが女の子だった

俺を不安げに見るN
隣で真顔のまま殺意を放ち続ける大根さん
キョドるコミュ障の俺

大根さんの見えない人からでも相当キモい光景だったはずだ

なんやかんやでNが口を開いた
「これなんですけど」
隣のそれを指さしていた
彼女には本当に大根さんが見えているようだった

その時なんの前触れもなく大根さんが逃げた

俺よりでかくてボテッとしてるし速そうには見えなかったが、大根さんはあっという間に走り去ってしまった

俺「行っちゃいましたね」

N「行きましたね」

俺「覗きこまれたんですか?」

N「四時間目あたりに教室に来て、それからずっとうちのこと覗きこんでました」

俺「そっか」

なんか違和感があった
俺が見ていた大根さんはあんな恐ろしい空気を出していただろうか…?
もっと慌てふためいてて愛らしい印象だったし、やっぱり顔なんてなかった気がするのに

とりあえずNとはLINE交換した
よくわからんが女の子の連絡先じゃ!!ラッキー!!と脳天気に考えていた気がする

それからしばらくは、俺もNも大根さんを見ることはなかった
Nとはよくラインする仲になっていたし、一度なんて一緒に映画を見に行くとこまでいったんだ
でも思春期真っ只中で彼女いない歴=年齢で、これワンチャンあるんでね?wwwwなんて思ってた俺と違って、
Nは付き合うとかは考えてないみたいだった

そんなこんなで大根さんのことなんか綺麗に忘れてしまって、
いつの間にか冬になった

俺の通ってる学校から家まではかなり遠いので、冬場は交通機関を乗り継がなきゃならない
なんとか交通費を浮かせて飯代に当てたい俺は、よく学校から駅までバスで10分の道のりを、
だいたい30分かけて歩いて行くこともあった

その日もたまたま駅まで歩いていて、コート着込んでマフラー巻いて真ん丸になった俺は
ふうふう言いながら雪道を進んでたんだ
そしてふと立ち止まると

道の先に大根さんがいた

たぶん雪は降ってなかったと思う
だから大根さんの姿は白い背景の中でもちゃんと見えた
その時のあいつには顔はなかったし、殺気なんて全くなくむしろなんか悲しそうだった
俺はなぜか動けなくて、10メートルくらいの距離をおいて見つめあってた

どのくらいの時間そうしてたのかわからないけど、大根さんは唐突に横を向いて
脇道へ入っていった
周りは住宅街だし人通りもないからすぐ追いつける、そう思ったが、それ以上近づくのはまずい気がして
俺はその場を去ってしまった

次の日の放課後、俺は学校そばのマックで友達とポテトを食っていた
頑張って浮かせた交通費で食べるマックウンメーーーーーーーーーwwwwwwwwwwwwwなんて冗談を言いながら
二人で課題をしたりくだらない話ばかりしていて、そのうち飽きてお互いスマホをいじってた
友達がパズドラしてる横で俺がラインを開くと、Nからの通知が数件あった
しばらく会ってないしどうしたんだろう、なんて思ってトークを見たら

「俺さんどこ」
「いないんですか?」
「ねえ」
「いたらすぐ教室に来て」

その文面からなんか嫌な予感がして、「ごめん、学校にわすれものした」と友達に言ってマックを出た

嫌な予感は的中した
教室に駆け込むと窓際にNが立っていた
外の雪明かりのせいでやけに表情が暗く見えたが、原因は他にあった

うしろにはあの真顔の大根さんがいた
相変わらず無言のままでこっちを睨んでた

俺の姿を見た途端、Nが急に喚き散らしだした
普段怒鳴ったり泣いたりしない子なのに、見たこともないようなぐしゃぐしゃの顔で何かを叫びだしたんだよ
よく「くぁwせdfrgthゆじこlp;」てあるじゃん、あんな感じ
俺は狼狽えて教室から逃げ出したけど、階段の前で追いつかれて羽交い締めにされた
おっそろしい怪力だった
そしてやはり顔つき大根さんはNの後ろでこっちを眺めてた

明らかにヤバいNと大根さんの様子があまりに怖くて、ついに何かが切れた

「離せよ!!!!お前Nじゃねえし俺の見てる大根じゃねえだろ!!!!!」
こんなようなことを十数年の生涯で一番デカいんじゃないかと思うような大声で怒鳴った

そしたら突然Nの腕から力が抜けて、背後の顔大根も跡形もなく消えてしまった
騒ぎを聞きつけた夜警さんが走ってくるのが見えた

俺とNは職員室でがっちり説教を食らい、生活指導担当のハゲから「カップルの痴話喧嘩は学校の外でしろ」と言われた
いつもなら「俺とNさんカップルに見えます!?やったー!」みたいなテンションの俺だが
さすがにそんな元気はなかった

校門前でNが「ごめん」と謝ってきた
「なんかわかんないんだけど、とにかく悲しくて俺さんが憎くて」
彼女は涙目だった
きっとあの顔つき大根と関係あるんだろうとは思ってたから、怒る気にはなれなかった
「いいよ、たぶんあの大根のせいだしNは悪くない」
そう言うとNは頭を下げて帰っていった

ここからが悪夢だった

その晩俺は金縛りにあった
そして俺の初体験を奪った相手はなんと顔つき大根だった
無言で俺を睨む大根、必死で睨み返す俺
結局明け方まで眠れなかった

学校へ行くともう俺とNのことはバレていた
昨日一緒にマックでだべっていた奴は
「お前Nさんと付き合ってたの?もうヤったの?ヤリ捨てしようとして怒らせたの?」
などと無神経な質問をしてきたので、腹パンキメてポテト吐き出させてやろうかと思ったがやめた

なにせ顔つき大根の野郎がずっとついてきて、そのせいか身体がだるくてしょうがなかったからだ

以下は顔つき大根さんが僕にしてきた嫌がらせです

・家から学校までストーキングしてくる
・授業中ノートを覗き込みながら無言の圧力
・体育の時間バスケットボールに頭ぶつける

勘弁してほしかった

廊下でNとすれ違ったが、昨日の一件もあって無視された
若干凹んだが、とりあえず「俺の後ろの大根見えてる?」
とラインしといた
しばらくして返信が来た

「もうそういうのやめてよ」

「なんにもいないじゃん」

はてな
なぜかNには俺のスタンドと化した顔つき大根は見えていないようなのだ
俺一人が呪われた?と悟った
絶望的だった

俺は昔ちょっとだけ霊感があったが、すぐに見えなくなったし
宗教上の理由で神社仏閣には立ち入れないんだ
ということでお祓いなんかも無理そう
さらに悪いことにマイエンジェルNにはもう見えてないし敬遠されている
つまり自力で何とかするほかなかった

できたら皆には「ネタかよwwwwwww」と笑って欲しいのだが
俺は昼休みを告げるチャイムと同時に弁当抱えてトイレへ駆け込んだ
なぜってそりゃぼっち…だからではない

顔つき大根と話をつけるためだ

錯乱した俺はこんな訳のわからん化物とタイマン張るのにトイレに行ったのだ
弁当持参で

個室に駆け込んだ俺は便器に腰掛けて弁当を大急ぎで食うと、早速付いてきたはずの顔つき大根に話しかけようとして後ろを振り向いた
今考えれば当たり前だが、やつの身体にはタンクがめり込んでて、というか透けていて
あらためて「コイツはこの世のもんじゃないんだな」と思った

その後なんか色々試行錯誤したが割愛する
去年の冬頃、昼下がりの男子トイレの個室から「おい」「なんか言えよ」「お前なんなの」などのセリフを聞いてしまってビビった奴がいたとしたら
多分俺のせいだ、ごめんな

あまり手がかりはなかったけど、とりあえず
・顔つき大根と俺の見ていた大根さんは別の存在であること
・顔つき大根さんは何かに怒っているが、それは俺自身にでなく俺に関わる何かに関してであること
・Nにこれ以上何かするつもりはないこと

はわかった
昼休みいっぱいかけて得られたのはこれだけだったが
とりあえず俺のせいで俺やNが呪われたとかそんなんじゃなく、なにか目的があって俺にくっついてるんだとわかって
すごくホッとした記憶がある

しかしその後進展はなく、顔つき大根とのコンタクトも要領を得ず
マイエンジェルNにはラインで既読無視されるようになった
つらかった

でも、なんだかそいつの存在にも慣れてしまった自分もいたんだよね
毎日毎日覗き込まれるけど、顔つきはトイレまでついてこなくなったし
飯の最中は気を遣ってか席を外してくれるようになった
こいつなりに考えてんだなあなんて思うとちょっとニヤけた

 

はい、いいえとか簡単なのは身振り手振り多かったな
喋ったりはしないけど、なんていうか感情の塊をぶつけてくる感じ?
伝わるかな

そんな俺と顔つき大根のドキドキ同棲生活も突然終わってしまった
顔つきと暮らし始めて何週間かたった頃だったな
下校中雪道をぼてぼて歩いてた俺は気配を感じて顔を上げた

いつかと同じように、そこには大根さんが立ったいた
もちろん顔のない方だ
なんかいつになく嬉しそうだった、なんでかわからんけど嬉しいんだってのは伝わってきた
気が付いたら顔つきが俺を追い越して大根さんに寄って行ってた

そしたら消えた

わけがわからなかった
だって大根さんはあんなに嬉しそうで、顔つき大根さんだって健気に駆け寄って行ってさ
消える意味がわからなかった
しばらくその場から動けなかったよ

ふらふら自宅に帰って寝た
晩飯に何を食べたかも覚えてなかった

翌朝も顔つきはいなくて、佐為が消えた時のヒカルってこんなかんじだったのかななんて
ぼんやり思ってた

Nには一応「大根さんふたりとも消えた」てラインした
返事はなかった

あの大根二人は元が人であろうとなかろうと、家族か恋人か、とにかく知り合いだったんだろうな、と
顔つきが俺やNに憑いたのも俺に怒りを感じさせたのも
全部顔のないほうの大根さんに会いたかったからじゃねえかなって
今はそう思ってます。

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