【怖い話】影の住人

短編の怖い話



新しい家。新しい生活。山田一家はその夢を叶え、郊外の静かな地域にある美しい新築の家に引っ越した。最初の数週間は、新しい環境に満ちた幸せと期待で過ごした。しかし、その幸福は長くは続かなかった。

問題は、家の一角にある壁の影から始まった。当初、山田一家はそれを気に留めなかった。影が時折、おかしな形に見えることもあったが、それは建物の構造や光の加減だと考えた。しかし、時間が経つにつれて、その影はより明確で、より歪んだ形を取り始めた。

家族の中でも、特に長女の美咲はその影に異常な興味を示した。彼女はしばしば、影の前で時間を忘れて立ち尽くしていた。その行動は徐々にエスカレートし、美咲は夜中に起き出して、その影と「話している」かのように見えることもあった。親は最初、それを子供の空想として片付けたが、美咲の様子は日増しに奇怪になっていった。

ある晩、家の中に不吉な静けさが漂った。山田夫妻が目覚めると、美咲の部屋が空であることに気づいた。パニックに陥った彼らは家中を捜し回り、最終的にその異様な影の前で美咲を発見した。しかし、彼女の目は虚ろで、顔には異様な笑みが浮かんでいた。美咲の口からは「影が欲しい」という言葉が繰り返し漏れていた。

一家は家を離れ、霊能者に相談した。霊能者は一家を見るなり、青ざめた表情で言った。「この家は呪われています。あなたたちの娘は…もう手遅れかもしれません。」霊能者は体調を崩し、最後に「あなたたちは、あと数日で…」と言葉を残し、意識を失った。

山田一家は急いで家に戻り、美咲を医者に診せたが、彼女の状態は一向に改善しなかった。家に戻ると、影はさらに大きく、形を変えていた。影はゆっくりと部屋から部屋へと移動し、家族がそれを追うごとに、美咲の状態は悪化していった。

ついに、影は家の全てを包み込んだ時、山田一家は現実との境界を失った。家の中は不可解な闇と歪んだ空間で満たされ、一家はその中で迷い続けた。その後、一家の行方は知れず、新築の家はその後も不可解な影に覆われ続けた。訪れる者は誰も、その家の中から戻らない。

それ以来、地元ではその家を避けるようになった。家の近くを通ると、壁に映る影が、ほんの少し歪んで見えるという。そして、その影の中から、時折、美咲の笑い声が聞こえると言われている。



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