【怖い話】妹のぬいぐるみ

短編の怖い話



自分には3歳年の離れた妹がいるんだ。
年の差があることと、女の子ってことで親は妹が生まれてから俺のこと放置して2人して妹べったりでさ。
何かにつけてよくある「お兄ちゃんなんだから」「大きいんだから」と、自分のこと後回しにされていたのが気にくわなかった。
何だか親を妹に取られたような気がしてね。
あの頃は妹のこと憎かったし、何かにつけて後をついてきて、うっとおしかったのを覚えてる。
親のいる前で妹こづいたりしたら、俺がものすごい勢いで怒られるのも当たり前になっていたんで、小学校に上がるころには妹のことは無視するようになった。
自分が妹に何もしなければ、親は食事や身のまわりのことなんかは最低限やってくれていたからね。

妹は幼稚園に入った年の冬に、風邪を拗らせて寝込んでたことがあった。
その日も朝から熱があって寝ていたんだけど、夜になって高熱になったもんだから親があわてて救急病院に連れて行ったんだ。
自分は留守番していろと、1人家に残されたんだけど、普通ならどちらかが自分と家に残るか、病院に連れて行くよね。
でもうちの両親は2人揃って妹についていって、自分のことは放置。
近くに祖父母や親戚もいなかったもんだから、他にいきようがなかったにしても、自分のことはどうでもいいのかと、子どもながらにそれで怒りと悲しみが込み上げてきた。
でもどうにもならないから、戸締りして寝ようと思ったんだけど、そういえば妹の大切にしていたぬいぐるみがあったなあと、珍しく妹の部屋に行ったんだ。

妹は30cmくらいの大きなクマのぬいぐるみがお気に入りで、家にいるときはいつも抱っこして歩いていて、寝るときも一緒だった。
旅行にまで持って行くほどだったんだけど、そこまでお気に入りな理由がわからなかった。
一度、妹を泣かせるつもりでクマのぬいぐるみ相手にプロレスの真似して、壁に投げつけたりしてたら妹が大泣きしてひどく両親に怒られたこともある。
クマのぬいぐるみは妹の布団に寝かされたままだった。
今なら家に誰もいないし……と、魔がさしてしまって。
妹や親に対するうっぷんをクマにぶちまけて、壁に投げつけたり、床にたたきつけたりしてしまったんだ。

30分くらいそんな感じで遊んでたんだけど……。
ふとクマのぬいぐるみの顔を見たら、何だか怒ってるように見えたんだよ。
作り物のぬいぐるみの表情なんか変わるわけないのに。
でもなんだか不気味で怖くなったから、妹の部屋にぬいぐるみ放置して自分の部屋に戻って、マンガ雑誌を読み始めた。
でもしばらくして部屋の外でなんだかごそごそ音がしてるのに気付いた。
親が戻ったのかと思ったんで部屋から出てみたんだけど、誰もいないんでおかしいな、と思ったら視界のすみにクマのぬいぐるみがいた。
妹の部屋に放置してたのに、ドアの影からこちらの様子をうかがっているようだった。
しかもよく見てみると、ゆっくりとだけどクマのぬいぐるみが動いてるんだよ!
もう怖くなって部屋の戸を閉めて、布団かぶって丸まってた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
って、言ってるうちになぜかそのまま寝てしまって。
朝起きたら両親は戻っていたけれど、妹は風邪拗らせて肺炎になっていたらしくそのまま入院したって。
何となく気になって、クマのぬいぐるみのこと聞いたんだけど、母親が不思議そうな顔してた。
妹に頼まれて病院に持って行こうと部屋を見たらなかったから、家の中を探してみたけどどこにもなかった、って言うんだよね。
うちの両親、幽霊とか怪奇現象全く信じな人たちだったから、留守番中にあったこと話しても信じてもらえないだろうと思って、黙ってたんだ。

その日は学校から帰ったらテーブルに母親から書置きがあって、妹のお見舞いにいくから、1人でごはん食べなさいって、夕飯用にパン屋で買ったパンが置いてあった。
1人で食事なんか慣れっこだったから、別に気にもしなかったんだけど部屋で宿題をやっているときに背後から視線を感じたんだ。
嫌だな、怖いなと思ったんだけど振り返ったら……。
妹のクマのぬいぐるみが……。
びっくりして椅子から落ちそうになっりながらも、逃げようとしたらクマのぬいぐるみがものすごい勢いで自分に飛びかかってきて後ろに倒れ、自分はそのまま気を失ってしまった。

気が付いたらもう夜で。
母親が帰ってきて、部屋で寝ている自分を発見したらしい。
さすがにクマのぬいぐるみのこと話そうとしたら、母親が病室に行ったったら妹の枕元にクマのぬいぐるみがあったと……。
その話聞いてもしかして、あのクマのぬいぐるみは妹のこと探していたのかなと思ったんだ。
妹が退院するまでは、特におかしな現象はなかったんだけど……。

退院した妹が、会うなりおかしなこと言うんだよ。
「お兄ちゃんがクマちゃんいじめてた」
自分がクマのぬいぐるみを壁に投げつけたりしていたの、誰も知ってるはずがないのに。
妹が持って帰ってきたクマのぬいぐるみは、首のつなぎ目がとてももろくなっていて、ぼろぼろだったし、脚や手に土もついていたみたいなんだよね。
両親が新しいぬいぐるみ買ってあげる、っていっても妹が拒否してしまったので、クマのぬいぐるみを直してクリーニングまでしたんだけど……。
「クマちゃんがどうしてお兄ちゃんが、私をいじめるの?って聞いてる」
妹がそんなことまで言い出して。
妹のその言葉がきっかけで、家族会議になって両親や妹とのわだかまりも無くなったんだ。
今もクマのぬいぐるみは妹が大切に持っているけど、あれ以来おかしな現象は起きていない。
妹に聞いたら、小学生くらいまではクマのぬいぐるみと話ができたけど、今は全く話ができなくなったと、妙な返事しか返ってこないんだよね。

クマのぬいぐるみには、何か乗り移ったりしてたんだろうか。
昔から日本じゃ物にも魂が宿るって話もあるけど……。
そういう類で妹に大切にされていたから、妹のことを思って何とかしようとあんな現象を起こしたのかな?



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