【怖い話】幽霊船

実話の怖い話



俺が実際に体験して、俺の人生を変えてしまった話なんだけどさ、“幽霊船”についての話をしたいと思う。それから、友人との想い出話にもなるな。
中学校の頃に、俺は大切な友人を海難事故で亡くした。行方不明となっているが、多分、とっくに海の底で水死体となって、魚に喰われてしまっている、……って事になっている。

本当なら、俺も友人と一緒に水死体になっていたのかもしれないけどな。
……けど、俺は生きている。多分、死に損なったんだと思う。

俺は海辺近くの都市に住んでいて、学校に行く途中も海の近くを通る事になっていた。小中学生の時は、よく海に行って泳いで遊んでいたっけ。俺は友達が少なかったせいで、もっぱら一人で泳いでいる事も多かったけど。

海の幽霊のイメージって、大体、思い浮かぶと思うんだ。
イメージとして、夏の夜、海水浴をしていたら腐乱死体の姿をした幽霊に足を引っ張られて海の底に引きずり込まれそうになったとか、他にも、漁師が舟とかボートとかに乗って夜の海に出かけたら水の中から大量に腕が出てきて転覆させられそうになったとか。

俺と友人が遭遇したのは、まさに“幽霊船”って奴だった。

俺は根暗で学校で浮いていたけど、そんな俺と仲良くしてくれる友人がいてさ、とても気が合った。そして、そいつも変わっていた。

その仲の良い友人と一緒に、よく海に行っては、年中泳いでいたものだ。俺の住んでいるところは日本の西側なんだけど、もちろん、冬はとてつもなく寒い。ただ、俺達はやんちゃだった為か、どこか、馬鹿で怖いもの知らずだったせいか、冬の寒い日にも海に行ったりした、それこそ台風の日や雪の日にだって。まあ、下手すると、それだけで怪奇現象に遭遇しなくても、水難事故にあって、あっさり馬鹿な死に方してしまって、地方紙の片隅にぽつんと記事が載ったりするような事になっていた可能性もあったんだけど。少なくとも、何とか、“俺の方”は、今でも生きてはいる。

ここだけの話、俺は変な妄想癖を持っている。
妄想って言っても、楽しい空想に耽るとかじゃないんだ、ガチの心の病気って言った方がいい……。
親との関係が悪かったからか、幼稚園、小学校の頃にイジメれていたからなのか、俺は一度、思い込むと、絶対にこうに違いない、って思い始めるんだ。たとえば、家の裏側にヘビが這っているに違いない、って思うと、絶対にそうだって思って、どうしても確かめたくなる。家の鍵は何度かけても、かけていないに違いない、って思ったりする事がある。大抵、完全に思い込みだったりするんだけどさ。ただ、正直、変な病気だって自分で思ったりするよ。

よく、友人と一緒に、二人だけで夜の海を見に行く事があった。
そいつは物凄くイケメンでさ、学校中の女から好かれていた。初体験も早かったと思う。ただ、女関係の愚痴が多かったな。

そいつは親が離婚していてさ、気の合わない親父と一緒に暮らしているのを、よく俺に愚痴ってきた。俺も親と気が合わなかったから、よくそいつと話が咲いた。

俺の事は、仮に名字のローマ字表記を取って、Zって書いておこうか。

「なあ。Z、来年、受験だけどどうする?」
「どうするって、適当に高校受ければ、どれかは受かるだろ」
「俺、中学卒業したら、働こうかな……」
「中卒で雇ってくれる場所なんて多くないだろ。せめて高校くらいまでは卒業しておいた方がいいと思うぜ」
「でも、早く家を離れたいな……」

友人は、冗談っぽく、年上の彼女を作って生活の面倒を見て貰うさ、と付け足して答えた。俺はモテる奴は羨ましいな、女紹介しろよ、と返したと思う。

俺は知っていた。その友人がどんなに沢山の女にチヤホヤされても、絶対に満たされないんだろうな、と。いつも、自分と父親を捨てた母親の事をボヤいていたのを覚えている。

その友人と海を眺めていると、決まって、海の向こうから何かやってこないか、って夢想するんだ。そして、絶対に海の向こうに何かいるような気がしたんだ。

そんな俺の精神と波長が合ってしまったのか、俺は“呼んでしまった”みたいなんだよな。

最初は、海の向こうに、ぽつん、と、豪華客船のようなものがあるように見えた。こんなところに、何でだろう? って、思ったんだ。で、その豪華客船は近付いてくるんだ。
船は水辺の辺りで停まった。

明らかに砂浜の辺りに停止して、階段のようなものを下ろしてきた。
多分、俺と友人に対して、その船の人が乗っていいよ、って合図だと思ったんだ。

ぼんやりとしながら、俺達は船の中に入っていた。
船の中に入り込んでいる記憶は正直、ちゃんと覚えていない。
気付いたら、船の中に二人でいたな。

そう言えば、映画『タイタニック』の中もこんな感じだったな、と友人と一緒に話していた。

タキシードやドレスの女の人がいたりして、俺達を迎えてくれた。パーティーをして、豪華な料理がバイキング形式で並んでいたな。何か知らないけど、少し貧しい服装をした黒人の少年とか、民族的な衣裳のロシア人やインディアンの男の人もいた。軍服を着ている人もいた。とにかく、世界中の人間達が人種や衣裳を問わずにたむろっていた。笑ってしまったのが、着物を着た女の人も混ざっていた事かな。

一人のタキシードを着た老人が、俺と友人の処に歩み寄ってきたんだ。

「楽しんで頂いていますか?」
老人は俺達に訊ねた。

俺達は首を縦に振った。

「パーティーのお食事はお好きなものを。貴方達もこの船のお客様なのですから」
そう言って、老人は去っていった。

「どうする?」
友人は訊ねる。

俺は何となく“食事を食べてはいけない気”がした。
友人もそれに同意していた。

俺も少し霊感があったが、友人にも霊感みたいなのがあった。
俺は友人に聞いてみた。

「『ナグルファル』って知ってるか?」
「いや、なんだよ、それ?」
「…………北欧神話がモチーフのゲームがあってさ。それで知ったんだけど、死者の爪で出来た船なんだって。死者の女神が作った船でさ。そのゲームでのエピソードなんだけど、その死者の船の中で出された食事を食べたら、二度と生きている人間の世界に戻れないって……」
「お前、オタクだなー、Z……」
「小学生の頃、TVゲームばっかしてたからな。……とにかく、食べ物は、食べちゃ駄目だ……」
「…………。分かっている」
友人も並んでいるバイキングを異様な眼で見ていた。

「その北欧神話とかゲームの話は知らんけどさ、Z。俺はこんな事を日本の神話で聞いた事ある。男の神様と女の神様がいてさー、女の神様が死者の世界に行って、死者の食べ物を食べて、死者の国の住人になってしまうんだよ。つまり……」
「うん、そういう事だよな…………」

ガツガツと、美味しそうな料理を、様々な人達が食べている。
多分、この船は、乗せている乗客の格好を見るに、世界中を巡っているのだろう。

「そう言えば、今、何時なんだろ?」
持っていた携帯の電源は二人とも切れていた。確か腕時計を鞄の中にしまっている、と言って、友人は腕時計を取り出した。時計の針は進んでいて、夜の0時近くになっていた。

「とにかく、隙を見て、この船から降りた方がいいよな…………」
「だな……」
俺達は互いにうなずきながら、どうにかして、船から降りられるルートを探した。

看板に出ると、暗い海の上にいた。何処を見ても、陸が見えない。
陸が見えれば、海の中に飛び込んで、泳いで逃げるという発想もあったのだが、ひたすらに暗い海ばかりが見える。俺達二人は顔を見合わせて、項垂れた。そもそも、何故、この船に乗っているのか分からない。確かなのは、この船に乗っている者達は、みな、人間では無い、という事だった。

「いったん、中に戻ろう」
友人が言った。風が吹き荒れていて、とても寒かったからだ。

先程の船内のパーティーに戻ろうとして、突然、大きな時計の音が鳴り、船内から明かりが消えた。俺達は心臓を鳴らした。時計を見ると、どうやら十二時を過ぎた処だった。
俺達は何となく、嫌な感覚に襲われながら、先程のパーティーを覗いてみる。

俺達は息を飲んだ。

ボロボロのタキシードに、ボロボロのドレスを纏った男女達。彼らの頭は朽ち果てた頭蓋骨に変わっていた。黒人の少年はゾンビのように身体が崩れ、インディアンの青年は全身の所々に縫い目がある化け物になっていた。此処にいる客達全員が、生きた死体で、十二時を過ぎた後は、元の姿に戻ってしまったのだろう。

こつり、こつり、と、タキシードの老人が歩いてくる。
彼は骸骨の顔に、両眼を赤く光らせながら、俺達を見ていた。ちろちろと、剥き出しの歯から、舌が伸びている。

「いかがなさいますかな? 新しいお客様方、貴方達は迎えられる資格があると思います」

その声は、どうやら俺達二人の頭の中に響いていた。

「お二人共、生きている事を拒んでいますね。もし宜しければ、いつまでも、皆さま方と一緒に永遠に世界中を旅しませんか? 私共は貴方達をとても歓迎いたします」

俺は泣きそうになりながら、必死で首を横に振った。
そして、老人はカタカタと、歯を鳴らしながら口から煙を吐いていた。

「なら、今すぐ、海へと飛び込みなさい。安心しなさい。大丈夫ですから」

俺はもう本当に泣きじゃくりながら、海へと飛び込んだ。地面までの距離が怖しく長く、そして海の水がとてつもなく冷たかった。

これが死か…………。
何となく、それは優しげで、心地よい音楽を聴いているような感覚に陥った。

俺はそう思った。

最後に覚えているのは、踏みとどまって、海に飛び込むのを止めて、俺の顔を寂しそうに見下ろしている友人の端正な顔だった。
そして、俺が飛び込む前に、確かに友人が言っていたんだ。
……ごめん、俺、パーティーの食べ物、口にしてしまった。ジュースだったんだけどさ。美味しかったけど、何か不思議で幸せな感じがしたな。口にしちゃ駄目だ、って何となく、気付いていたんだけどさ……。

…………。
俺は気が付くと、海岸の上に打ち上げられて、砂浜の上で朝日を拝んでいた。潮風がとても気持ちいい。

友人の姿は何処にも無かった。

それから、俺は家に帰った。
数日間は家の中に引きこもっていたと思う。
友人は捜索願いが出されていたが、俺の話の証言を元に、海で行方不明、という事にされた。そして、大人達が言うには、俺の言っている事は、海で泳いでいる際に見た、脳が見せる臨死体験の類なのだろうと言われた。

これで、俺の体験した怖い話は終わる。
友人は、本当はとてつもなく孤独だったのだと思う。家庭に居場所が無かった。

今年で成人式を迎えるが、俺は今でも少し根暗なままだ。友達作りも苦手だ。目標としていた大学受験はことごとく失敗して、Fラン大学に仕方なく通っている、バイト先でも、中々、仕事を覚えられないような怒鳴られてばかりの人間だ。……つまり、社会不適合者……、俺はあの船から降りた事が間違いだったのではないかと思う事が多い。

あの夜の幽霊船の中での記憶は確かなものなのか、それとも、友人と一緒に、夜の海で泳いでいたら、そのまま友人の方だけ溺れ死んでしまったのか……俺のあの日の記憶が曖昧になっていて、本当に合った事なのか、脳が作り出した幻想なのかは分からない……。

俺は今でも、あの豪華客船の姿をした幽霊船が現れないか、そして、その中で世界中を旅している友人と出会えないか、海に行く度に想い出している。



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