【怖い話】蜘蛛

短編の怖い話



私の実家のある地域はド田舎で、メイン通りから実家へ行く道は舗装はさされていたものの、山のふもとということもあって、家周辺は竹藪があったり草木が伸びほうだいになっていることもよくありました。
そのせいか、私の学生時代は同じ学校の人に幽霊屋敷扱いされていたこともあるほどで、噂で無人の廃屋と聞いてきたと迷惑な肝試し連中がわざわざ車で遠方からきたことも。
毎年夏にはそういった肝試し連中が来て迷惑をかけられていたので、今では家周辺の草木などは定期的に手入れをしていますが、それでも隣の家までの距離があること、山のふもとということもあって夜には何ともいえない不気味な雰囲気を感じることもありました。
生まれてから大学進学で上京するまで住んでいましたが、なんだか不思議だな、と思うことはあっても実際に幽霊をみたとか心霊現象にあったということはなかったんです。
でも、去年のお盆に実家に帰ったときに心霊体験なのかわからない、不思議な体験をしました。

昔と周囲の風景は変わらず、自然が多いことから実家の周囲には昆虫が多く、時折家の中で蜘蛛の姿をみることも多かったです。アリやカなども出ることはありましたが、それなりに手入れしていた家だったので、家屋内での大量発生とまではいかず、外からはいりこんだものがたまにいる程度。
「蜘蛛は害虫を食べてくれるから、殺してはいけない」
すでに亡くなっている祖父母からそう教えられていたことと、蜘蛛がそんなに気持ち悪いとも思っていなかったので部屋に出たときは窓から外に出すか、放置していたことも多かったです。
実家に帰った初日も、部屋のすみで小さな蜘蛛を見つけたのですが、人目を避けるように物陰に隠れてしまったので放置。
その日は久々地元の友人と会ったりして外出していたこともあり、実家では特に何もありませんでした。

2日目の朝、蜘蛛の姿は見ませんでしたが、両親が出かけて1人なのに人の気配や視線を感じることがあって、何だろうと不思議に思っていたんです。
私の実家は曽祖父母の時代からある木造の家で、かなり古くて床も少しきしむことがあったんですが、1人で部屋にいると廊下の床がきしんでいたんです。
昼間1人で家にいるときにも、部屋の前の廊下がきしむ音が聞こえて、ちょっと不安になったものの、気のせいだと思って過ごしていました。
両親が夕方に帰宅し、夕飯時に父が近くのスーパーまで1人で買い物に行って帰ってきたのですが、居間に入ってきたときに急に寒くなったんです。
何となく父の様子がおかしい、そんな気もしたのですが会話はいつもどおりだったので考えすぎかと思っていたんです。
ただ父がスーパーから帰宅してから、目の端にチラチラと人影が見えたり、顔のすぐそばに誰かの気配を感じたりと、気のせいにするにしてはちょっと気持ちわるいな、と思うことが……。
入浴中もシャンプー中に、いるはずがないのに背後に人の気配を感じたり。そして脱衣所で、ほんの一瞬ですが自分の後ろに黒い人影のようなものを見たような気がしました。
移動中の疲れとかで、神経過敏になっているのかなと思っていたのですが……。

翌朝友人との約束があって、早朝に家を出ることもあって、その日は布団に入ったのは22時ころで、この時間はまだ両親ともに起きていました。
普段0時過ぎに眠っていたのもあって、布団に入ってからなかなか眠れなかったのですが、気づけば寝ていたようで目が覚めて壁掛け時計を見ると午前2時すぎ。
このときなぜか喉がものすごく渇いて、水を飲みに行こうと思ったのですが、体が硬直しているかのように指1本さえも動かすことができませんでした。
そして部屋の中がものすごい嫌に感じたのですが動くことができず、横になっていると廊下からミシミシと誰かがゆっくりと私の部屋の方へ歩いている音が聞こえてきました。
その音は、すぐそばまで来ると聞こえなくなったのですが……。
深夜真っ暗な部屋ということもあって、大変気持ち悪く起き上がろうとしても体が動かなかったのですが、目を動かして周りを見てみると私の顔の右側に誰かの素足が見えました。
土で汚れているのかその足は真っ黒に汚れていて、足首のあたりに着物の裾のようなものが見えたんです。
家で着物を着る人なんていません。
もしかして不審者か、それとも幽霊かと思っていたら、おそらくその足の持ち主であろう女の人が私の顔を覗き込んできました。
見た瞬間叫びそうになったのですが声も出ません。
女の人は充血している真っ赤な目で、にやぁ、と嫌な笑みを浮かべていました。
開いた口からはお歯黒のように黒い歯がのぞいていて、長い髪の毛は乱れ放題。
その人が私に触れようとした瞬間、女の人は何かに驚いて数歩後ずさりました。
部屋のドアの方からまた何か違った気配がしたと思ったら、1メートルくらいの大きな黒い塊が飛んできて、女の人にくっついたんです。
最初は暗くてよくわからなかったのですが、目が慣れてくると女の人に飛びついているのが巨大な黒い蜘蛛だということに気付きました。
女の人は必死に蜘蛛から離れようとしていましたが、蜘蛛はがっちりと掴んで、女の人に噛みつき食べ始めたのです。
蜘蛛が食べている音も聞こえたような気がしますが、気づけば気を失ったのか、あの状況で眠ってしまったのか、朝になっていました。

翌朝めざめたときは普通に体が動くようになっていて、飛び起きたのですが、巨大な蜘蛛の姿はありませんでしたし、女の人がいたという痕跡もありませんでした。
寝ぼけていたのか、夢でもみていたのだと思いますが、前夜のように目の端に黒い人影が入ったり、人の気配を感じることがなくなっていました。
友人と会ったときに時期的なこともあって心霊系の話になったので、ネタ程度で話をしてみたら友人は笑うどころか真剣な表情になりました。
「その女の人って、もしかしたらあのスーパー近くの廃屋で出るって言われてる女の幽霊かも。きっと家に住み着いてる蜘蛛が、悪い霊から守ってくれたんだよ」
そんなことを友人は言っていました。
霊感というものは私にはないので、友人の言うことが本当なのかはわかりませんが……。
そういえば、祖父母は蜘蛛は害虫だけでなく、家を守ってくれると言っていましたが。
あの言葉には「霊からも守ってくれる」という意味も含まれていたのでしょうか。



短編の怖い話

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

怖い話.com

怖い話が好きでブログ更新してます。 オカルト、怖い話、ホラーのジャンルが好きな方にオススメのブログです。