【怖い話】掃除のおばさん

短編の怖い話



私の勤めている会社は、駅前のそこそこ広くて古いビルの5階にあるのですが、古すぎてトイレは他の会社と共用で各階に男女1つずあります。
廊下や階段、トイレなどの共用スペースは清掃会社が入っていて、毎日午前中に50~60代のおばさんが掃除しに来ていて、勤務年数が長くなるにつれ、おばさんともよく会話するようになっていました。
おばさん…上田さん(仮名)は、60代の方でご主人が亡くなられて家にこもっているのが嫌で清掃の仕事を始めたそうです。
もともと動くのもお掃除も好きな人だったそうで、時給はまぁまぁだけど会社にもよくしてもらっていると言っていました。

2年くらい前、ビルが駅から近いということもあってか、柄の悪い中高生や大人が夜間によくビルの裏手の駐車場にたむろするようになってた時期があったんですよね。
駐車スペースは6台ほど停まることができるくらいの小さなスペースで、基本的にお客様用のものだったのでうちだけでなく他社さんの社用車も他に停めていたため、昼間でも駐車している車が少ない状況でした。
ビルに囲まれて駐車場自体が表通りから見えにくいこともあってか、だんだんと昼間でも中高生がたむろするようになったんです。
人数も1~2人だったのが、5~6人くらいになるとタバコを吸うわ、出入りしている会社の人なんかに難癖つけそうになったりとかもひどくなってきて、対策考えなきゃねとうちの会社内でも問題になっていたんです。
上田さんも、よく言いがかり的なことやからかいの対象にされるようになってきて、あんまりいい気分しないね、って。
そういうこともあって、社長が警察やビル所有者と話し合いを近いうちにすると言っていた矢先に、事件が起こりました。
上田さんが、階段から落ちて亡くなったんです。
しかも普段利用することもなく掃除の対象範囲にもなっていない、外の非常階段から落ちて亡くなったと。
会社がお世話になっていた取引先の方でもあったので、会社代表として社長と一緒にお葬式にも行ったのですが、しばらくは立ち直れませんでした。

上田さんが亡くなってから1週間も経たないうちに、40代の神代(仮名)さんが、掃除しに来るようになったんですが、変なこと言うんですよ。
「掃除道具が勝手に動かされていたり、掃除したばかりのところが誰もいないのにすぐに土が落ちている」とか。
何だろうな、と思いはしたのですが、このときはあまり深く気にしていませんでした。
そして上田さんが亡くなってから、ぱったり中高生なんかがたむろするのも無くなったんです。
警察がたまに巡回には来ていたんですが、深夜もたむろがなくなったようでタバコの吸い殻などが朝来たときに落ちていることもなくなったんです。

そして上田さんが亡くなってから2週間後くらいから、前夜遅くまで残っていた営業さんがおかしなことを言いだしたんです。
「22時くらいに帰ろうと思って廊下に出たら、前の掃除のおばちゃんみたいな白い人影がぼーっと立ってた」
いくらなんでもそれは、と思ったんですが他の人も見たとか言い出して、社長が怒ったくらい。
変な噂たたなきゃいいなぁと思ってたんですが、私も見てしまったんです。

私は経理業務なんで基本的には残業がないのですが、その月は新規取引先が増えたり、もう1人が産休に入ることもあってなかなか仕事が進まず珍しく1人で残業をしていたんです。
夜8時ころになってようやく終わって帰宅しようと準備して会社を出ました。
エレベーターへ向かって歩こうとしたら、薄暗い廊下にぼーっと白い人影が見えたんですが、最初は気のせいだと思ってたんです。
ゆっくり近づいていくと、そのシルエットに見覚えがあってびっくり。
本当に営業さんが言っていたとおり、そこにいたのは亡くなった上田さんだったんですから……。

驚いてその場に立ち尽くしていると、上田さんはこちらをみて、ゆっくりとエレベーターに消えて行きました。
気のせいと思いたかったけどさすがにエレベーターに乗る気がせず、階段で1階まで行こうと歩き出したときに、なぜか階段の方から男の人の声が。
他の会社の人かな?と思って階段を降りると3階にこのビルの関係者とは思えない服装の高校生くらいの男の子が3人。
何となく身の危険を感じて駆け足で降りようとしたら、すれ違いざまに思いっきり手を引っ張られて転んでしまいました。
男の子たちが私に向かって歩き出したとき、一人が「うわっ!」って叫んで後ずさったんです。
さらに2人が私、というか私の後ろの方を見て驚いて階段を駆け下りていったんです。
一体何がなんだかわからなかったのですが、最初に驚いた男の子は腰を抜かしながらも「来るな!ババア!」って叫んで逃げようとしてたんですよね。
ハッとして後ろを見たら上田さんがものすごい怖い形相で、額から血を流して立ってたんです。
上田さんは私には見向きもせず、ゆっくりその男の子に向かって歩いていき男の子の前に立つと、スゥッと消えてしまいました。
それと同時に、階段を駆け上ってくる警備員さんの姿が。
男の子は警備員さんに連れて行かれて、私は膝を擦りむいただけで済みました。

後日聞いた話では、あの少年たちは普段からたむろしていた子たちで、このビルの警備システムが甘かったのを知って1~2階に入っていたテナントに深夜に侵入し盗みを働いていたそうです。
それに気づいたお店の人がオーナーと相談して警備会社と契約し、実際に稼働し始めたのが私が襲われそうになった日だったそうです。
そしてさらに後味の悪いことに、上田さんが亡くなったのは、あの少年たちが上田さんから金品を奪おうとして脅したときに階段から落ちてなくなったと……。
逃げ遅れた男の子が上田さんを階段から突き落としたと自白したそうです。
この事件以来上田さんの姿をあのビルで見たという人は出なくなり、掃除にきていた神代さんにもおかしなことが起こることはなくなったそうです。
上田さんは恨みをはらしたかったのでしょうか?



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