【怖い話】逆さの女

実話の怖い話



逆さの女

私が高校生の時に付き合っていた彼女は、いわゆる「視える子」だった。高校2年生の夏休み、部活が終わってから彼女と待ち合わせの場所で落ち合った。
彼女は自分と違う高校の生徒だったので、これがいつもの会うパターンだった。

軽く食事をして、彼女を家まで送り届ける。いつも通りに雑談しながら、いつも通る短めの商店街に差し掛かった。短いといっても居酒屋の立ち並ぶ商店街だ。今思えば、すでにこの時に何かしらのメッセージがあったのかもしれない。

商店街に差し掛かったのは部活後だったとはいえそれほど遅くはない時間だ。普段この時間ならまだうるさいほどに人がいる・・・はずなのだが、その日はまるで人はいなかった。不思議に思いながら歩いていると、前からスーツを着た若い男が歩いてきた。サラリーマンだろうか・・・見た目はいたって普通だった。

そのまますれ違い、しばらく歩いた後で少し気になったので後ろを振り返ろうとした。その時、彼女が小さな声で私を止めた。

「絶対に振り返っちゃダメ。見ちゃダメ。」
この時の彼女の顔色は真っ青だった。

「どうした?」
「あの男の人の首に、女の人がしがみついていた。首に手を回して、髪の毛がボサボサで・・・。それに私のことずっと見てた。」

彼女の怖がり方が尋常ではなかったので、家に送り届けるまでずっと慰め続けた。

翌日待ち合わせの場所に着くと、彼女は見当たらなかった。普段は必ず彼女の方が先についているので胸騒ぎがしたが、意外にも彼女はすぐに到着した。しかし、暗闇でもわかるほどに彼女の顔色は悪かった。目の下に大きなクマもできている。この時私は昨日の出来事を思い出していた。

「もしかして、昨日の・・・?」

私が尋ねると彼女は頷き、昨晩の出来事を話してくれた。彼女が自分の部屋で勉強していると、異常に冷たい風が窓から入ってきた。季節は夏のど真ん中。夏の風にしてはありえない冷たさだった。その入ってきた風の影響で窓のカーテンが少しだけ開いた。窓は机の目の前にある・

ゆっくりと上を向くと、上部の窓枠の外側に黒いものが垂れ下がっていた。恐ろしかったが目を離すことができなかった。彼女は動くどころか声を出すこともできなかったらしい。

数分間じっと見つめていると、ズズ・・ズズ・・とその黒いものは少しずつ下がってきた。その黒いものの正体は女の顔だった。いや正確には違うらしい。黒いものの正体は女の人の髪の毛だったのだ。しかもその女の人はどこかで見たことがある。それは、あの時商店街ですれ違った時のサラリーマンにしがみついていた女だった。

逆さまのまま、目だけが彼女を見つめており、口はニタァ〜っと笑っていた。あまりにも針を刺すような恐怖に、彼女はすぐにカーテンを閉め、布団へと潜り込んだ。そのまま一睡もできずに朝を迎えたようだ。布団から出てカーテンをゆっくり開けると、そこにあの女の姿はなく朝の清々しい太陽光が入ってくるだけだった。

だが何か違う。違和感を感じて窓の外を確認すると、例の女の人が垂れ下がっていたであろう場所の下に、水溜りのようなものができていた。もちろん昨日は雨が降ったということはありえない。

彼女が体験した出来事だった。私はこれを聞いて笑い飛ばすことができなかった。この話を何気ない日常の中でされていたら、笑い話で済んでいたのかもしれないが、目の前の彼女の姿を見るとそうも言ってられない。

「視てもらおう。」

明日は二人とも部活は休みだったので、住職の元へ向かった。この住職は少しチャラいが、その能力は折り紙つきである。その住職は彼女を少し視た後このように言った。

「これは生き霊がついているな。生き霊には二つのタイプがある。一つは無意識に取り付いていくやつ。もう一つは意図的に取り付つかせていくやつだ。見る限りこの生き霊は後者だろう。何か心当たりはないかい?」

私たちは商店街であったサラリーマンのことを話した。

「十中八九、原因はそのサラリーマンだろうな。これはおそらくだが、取り付いた理由は妬みなんじゃないかな。君たちが仲良くしているのを視てよくは思わなかったのだろう。でももう安心だ。生き霊はもう飛ばせないはずだよ。」

そういうと私たちは軽く会釈をしてそれぞれの家に帰った。住職の元に行った次の日、彼女の顔は明るさが戻っていた。もう女の人は現れなかったらしい。今度は私一人で住職の元に立ち寄った。住職にどのように撃退したのか少し気になったからだ。

「生き霊に基本的な呪縛を施したんだよ。その呪縛をされた生き霊が本体に戻ることで、呪縛によって本体を出られなくなる。簡単にいうとそんな感じだよ。」

それを聞いて私に何かができるわけではなかったが、あまり危険なことではなかったので少し安心した。あのサラリーマンの後ろについていた女の生き霊は誰だったのか?そんなことが私の頭をよぎった。だが今はもうその心配をする必要もない。もうこんなことが彼女に怒らないように祈るばかりだ・

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