【怖い話】隠された声

短編の怖い話



田中は東京の中心地に引っ越しを考えていた。予算の関係でなかなか良い物件が見つからなかったが、ある日、信じられないほどの低家賃で都心近くの1Kが見つかった。仲介業者によれば、前の住人が急に退去したため、家賃が特別に下げられているという。

引っ越して最初の数日は何も問題はなかった。しかし、夜になると隣の部屋から小さな声が聞こえてくることがあった。最初は上階か下階からの声かと思ったが、ある晩、壁に耳を当ててみると、はっきりと子供の声が聞こえてきた。

「ママ、ここにいるよ…」

田中は驚き、すぐに部屋の電気をつけた。しかし部屋の中は何もおかしな点はなかった。声の源を特定できないまま、夜が明けた。

翌日、管理人に隣の部屋に関して尋ねてみると、彼は顔をしかめながら答えた。「あの部屋は事故物件です。前の住人は若い女性で、彼女の子供が突如として姿を消したんです。母親は精神的に不安定になり、数日後に自らの命を絶ちました。」

田中は驚愕した。その晩、部屋で寝ていると再び子供の声が聞こえてきた。「ママ、僕はここにいるよ…」声は今まで以上に明瞭で、部屋の中から聞こえてきたようだった。

恐怖で目を覚ました田中は、部屋の隅に小さな男の子が立っているのを目撃した。男の子は田中に手を伸ばし、「ママ?」と呼びかけた。

田中は部屋を飛び出し、すぐにその物件を退去した。後に、部屋のクローゼットの中に、壁の裏に小さな隙間があるのを発見した。そこからは子供の古いおもちゃがいくつか見つかった。



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