【怖い話】黒い森の魔女の伝説

中編の怖い話



昔、親戚の女の子と仲が良かった。
それで、その子の母親から聞いた怖い話を語る事にする。
そして、同時に、僕と親戚の女の子に起きた、怖い話でもある……。

僕の親戚の女の子にはハーフがいる。
彼女はエミリーっていう名前だ。一応、名前に漢字が当てられていたけど、どういう漢字だったのかは忘れた。絵美理、だったかな。いや、絵美莉、だったかも……。今度、機会があれば、聞いてみる。

エミリーの母方はドイツ出身らしく、よく、その地方の文化の事を教えてくれた。
「魔女」というものが、エミリーの母親の故郷にはまだ存在していたらしい。

正確に言うと「魔女伝説」とでも言うべきものか。

エミリーの家に遊びに行った時に、僕はエミリーの母から、魔女伝説なるものを聞いた。
ドイツのある地方では、年に一度“魔女祭り”なるものがあって、魔女の仮装を楽しむものなんだって聞いた。まあ、ハロウィンに近いものらしい。お祭りの時は、中世を再現したマーケットや大道芸などが行われているとの事だった。

そして、エミリーの母親の住んでいた場所は、その地方の田舎で、家の近くに奇妙な森があったらしい。

エミリーの母が幼い頃、住んでいた家の近くには、暗くて深い森があったらしい。幼い頃、よくこの森で遊んだのだとか。

この森には、魔女伝説があって、中世の時代、魔女狩りによって殺された魔女の一人が今でも肉体を失って住んでいるのだという伝説が残っていた。幽霊のようなものだけど、幽霊とは違って、魔女は生前、悪魔と契約していた為に、死んだ後も幽霊とは違う、もっと別のものになったんだそうだ。また、死なずに生き伸びて何百年以上も森の中で暮らしている、という伝説も残されていた。

エミリーの母は、幼い頃、友人達と一緒に、その森の中を探検したのだそうだ。暗く、闇が深い、真っ黒な印象の森だったそうだ。昼間でも暗くて、不気味で、如何にも何かが出そうで、遠くから狼の声が聞こえてくるような場所だったそうだ。大人達は、狼などの森の獣が危険だから、余り近付くなと言っていたが、子供達はよくこの森の中に遊びに行っていた。ただ、その地方では、狼は銀を苦手とする、という迷信があった為に、子供達は何かしら銀製のものを持って森に遊びに行っていたそうだ。それの効果があったのか分からないが、狼の遠吠えを聞いても、子供達が狼に襲われる事は滅多に無かったらしい。
もしかすると、地元の漁師達が金属製のものを持っていた為に、子供達に何か金属製のものを持たせて、狼が怖がって近付かないようにさせていたのかもしれない。

その日も、エミリーの母とその友人達は、その森の中に遊びに行っていた。森の中に綺麗な川があるし、単純に美しい景観も見れる、大人達からの秘密の場所と言ったものだったそうだ。そして、そのグループは、いつものように、森の中を進んでいくと、たまたま、いつもは通らない小道を発見して、その先を進んでいくと、洞窟を見つけたのだそうだ。

洞窟の近くには、何故か、使い捨てた蝋燭や箒などが捨ててあって、エミリーの母の友人の一人にやんちゃな男の子がいて、その子が早速、洞窟に入って、此処を自分達の秘密基地にしよう、って言ったのだそうだ。

そして、彼らは洞窟の奥を進んでいくと、洞窟の中にはムカデや蜘蛛が這っていたり、蛇が鍾乳石に巻き付いていたりして、明らかに大人達からはすぐに帰れ、って怒られるような場所で、みな気味悪かったらしいんだけど、やんちゃな少年が聞かずに、とにかく奥まで進んでいこうって聞かなかったのだそうだ。

そして、エミリーの母達は、奥まで行って、とてつもないものを眼にしたそうなんだ。

それは、無数の人骨だった。
人骨の周りを、蛇が這い、ムカデがのたうち回り、蜘蛛が歩いていたらしい。古い骨もあれば、新しい骨もあった。まるで、この“森の精霊達”が、此処に訪れた人間を生きたまま食べてしまったような、そんな印象を受けたのだそうだ。

そして、それに混じって、大小様々の箒や、鍋や釜といったものが置かれていて、何か薬草や鹿などの動物の死体が吊るされている場所があり、明らかに此処で生活している者がいる、といった感じだった。エミリーの母はその時、すぐに悲鳴を上げて、一番先に逃げてしまったのだそうだ。

洞窟の外に出ると、気付けば、夕暮れになっていた。
狼が遠くで、けたたましく吠えていたらしい。

そもそも、この道はどうやって来てしまったのか。
暗くなると、道が分からなくなる為に、みな混乱して半泣きになりながら、帰る道を探していたそうだ。そして…………、洞窟に入ろうと言ったやんちゃな少年の姿が何処にもいない。探そう、という声と、帰って大人達に知らせようという声の二つがあって、結局、みな帰って大人達に任せる事に決めたらしい。

その後、何とかして、子供達は帰路に辿り着いたのだけど、その時の記憶があやふやで気が付けば、朝になっていたのだそうだ。そして、例のやんちゃな少年は、結局、はぐれたまま見つからなかったらしい。
それから、二週間くらい経過して、その少年は見つかったそうだ。

何でも、頭蓋を開かれ、心臓や肺を抜かれ、腸を抜かれ…………、身体中の内臓という内臓を一通り抜かれて、更に歯を全部抜かれ、両目もくり抜かれた状態で見つかったそうだ。……その凄惨な状況はどう見ても、狼などの森の獣のやった事だとは言い難く、明らかに異常者が行った事で、その後、山狩りが行われたのだけど、結局、子供達の見つけた洞窟というものは見つからなかったらしい。

ただ、この辺りの伝説によれば、魔女狩りで殺された魔女は、魔術の儀式として、生きたまま一、二週間掛けて、子供の身体から内臓や顔の部品を引き抜いて、契約している悪魔に捧げるという事を行っていたらしい。真偽は定かでは無い。…………、事件は異常者の犯行として、当時のドイツの地方紙にも載ったらしい。事件は迷宮入りし、エミリーの母達があの洞窟で見た無数の人骨は一体、何だったのかは分からずしまいだった。

此処までの話だと、猟奇的な怪談話として、エミリーの母親が作った話なんじゃないかとも思ったのだけど、エミリーの母親は、いつも肌身離さず持っているものがあったのだ。

それは、エミリーの母が、あの洞窟内で拾ったという、赤み掛かった琥珀色のペンダントだった。
かなり古い年代モノらしく、エミリーの母は、友達グループ達にも洞窟内で拾った事をずっと言えず結婚して、日本で暮らすようになった後も、身に付けたり、大切に保管していたらしい。エミリーは母から、母が実際に体験した怪談話を聞いた一年後くらいに、そのペンダントを母の寝室で見つけて、僕に見せてくれた。

そして、僕とエミリーは何故だか、何かに憑かれたように、近くの森を散歩した。
そこは、中部地方の田舎で、開発される事なく森が多く残っていた。二人で暗い森の中へと入っていった。

「もしかすると、私のお母さんは、ペンダントを通して、故郷のドイツから何者かを此処に連れてきてしまったのかもしれない」
エミリーはそんな事を僕に告げた。

エミリーは何処か憑かれたようにペンダントの宝石を眺めていた。僕は、幼いながらも、これはこの世界にあってはいけないものだ、と何となく感じていた。

日本の狼は絶滅したと幼いながらに聞いている。歴史の授業で小学校の先生が教えてくれた事だった。仮に生息していたとしても、北海道の山奥にいる筈だと。
けれども、中部地方の田舎の森で、僕とエミリーは確かに狼達の遠吠えを聞いていた。それはけたたましく吠えて、遠くから、無数の眼が僕達を睨んでいた。

気付けば、奇妙な山小屋に辿り着いていた。
洞窟では無いみたいね、と、エミリーは言った。
憑かれるように、僕達は、その山小屋の中へと入った。
すると、中には奇妙な道具が置かれていた。天井から吊り下げられている動物の死体。薬草らしきもの。それから、鍋や釜。箒といったものがあった。
この辺りの猟師さんか何かかな、とエミリーは言う。僕は夢とも現実とも付かない、奇妙な感覚に取り憑かれていた。

僕は、小屋の中を見て回っていた。

地面をよく見ると、魔法陣のようなものが描かれていた。
漫画やゲームに登場するような、五芒星とか六芒星といった形じゃなくて、うねうねした変な図形で、何処の言語か分からない文字が執拗に執拗に描かれていた。

他に何か無いかと辺りを見て見ると、何と、冷蔵庫が置かれていた。電気は通っているのだろうか……。僕はおもむろに冷蔵庫を開ける。

すると…………。
中に、剥がされた何かの生き物の皮が沢山、保管された。香料の良い臭いがする。

「ねえぇ。それ、人間の顔の皮膚…………っ」
エミリーは口を押さえていた。

ぎぃー、と、山小屋の扉が開く。

エミリーの母親が、僕とエミリーを見下ろしていた。怖ろしい形相だった。

「何をやっているの? こんな処で」
彼女は強い口調で言う。
そして、エミリーの首にぶら下げられていたペンダントを一瞥すると……。

「今すぐ、返しなさい、それを」
エミリーの母親は、物凄い形相でエミリーを見ていた。

…………、それから、記憶はあやふやになった。

夢うつつで向かった森の中、幼い頃の記憶だった為に、本当に夢だったのかもしれない。

ただ、十数年、経過した今、親戚のエミリーから電話が掛かってくる。
彼女の母は数カ月前に亡くなり、葬儀には僕も参列した。

そして、母の形見としてエミリーが例のペンダントを持つ事になった。

「最近、私は思うの。魔女の魂は継承されていくんじゃないかって…………」
エミリーは恐怖に満ちた声で、僕にそう電話してくる。

あの赤みがかった琥珀のペンダントから、囁き声が聞こえてくるのだそうだ。
ペンダントには、一体、何が封じられているのか?
そう言えば、魔女は悪魔との契約を行うと聞く。
ペンダントの中にはかつての持ち主である魔女の魂が、あるいは、魔女が契約した悪魔が、あるいはその両方が入っているのではないか?

…………、エミリーは最近、日増しに幻聴に苛まれていると言う。
気付けば、動物の死体などを解体して、その記憶が無いのだと言う。中には、犬や猫、鳩といった明らかに市場などでは売っていないものだ。

エミリーはこれから先、どうなるのか分からない。
彼女はつまり“魔女の魂”と“悪魔”を継承したのだろうか?
僕には、推測する事しか出来ない。

一体、エミリーに何が起こっているのか…………。
そして、エミリーとも彼女の母とも関わった僕は…………、今後、生贄として殺されてしまうのだろうか……。

正直、夜眠る前に、遠くで狼の遠吠えが聞こえてくる。
僕も、魔女の作る、悪魔への生贄の材料として、殺害され、惨殺死体として発見される事になるのかもしれない…………。



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