【怖い話】ウサギの肉

実話の怖い話



子供の頃、僕はおじいちゃん子だった。

祖父は祖母と結婚する前は、田舎の農村に住んでいた。
その後、戦争があって故郷から一度、離れなければならなくなったらしい。故郷を捨てた後も、祖父は度々、住んでいた農村に戻っていた。

もう三十年以上も前になる。
僕はよく祖父の住んでいた農村に遊びに行っていた。
この村はある風習を残していた。

祖父はよく、幼い僕に、祖父の故郷の風習に関して話してくれた。

その村には今でも座敷牢になっていた場所が残されていた。
そこに一体、何を入れていたのだろう。
農村に遊びに行って、祖父の友人の家で、始めて座敷牢を見た時、僕は祖父に訊ねた事だった。今は何も入っていないけれど、一体、何を飼っていたの? と……。

「もう、この家では飼われてないが。今でも“子ウサギ”は飼育されておるからなあ。他のもんが飼っているんじゃないかのう」

祖父は僕にウサギの肉の話をしてくれた。
祖父の幼い頃、村ではウサギの肉がよく食べられていた。
おめでたい日などにも、ウサギの肉は様々な料理に使われていたらしい。

「わしも沢山、ウサギは喰ったよ。あの味は忘れられない」
祖父は陰りのある表情をして、そのような事を口にした。
包丁を使ってバラバラにするのを、祖父はよく手伝わされていたとの事だった。それから、ウサギで作った料理が出来たら、隣近所にもお裾分けが行った。

ウサギは村に幾つもある座敷牢の中に閉じ込められていた。
ウサギは両脚が小さかったり、両手の指が無かったりした。
他にも眼球が三つだったり脳がまるまる無いものもいた。

そう。
祖父の住んでいた村の風習では奇形児として生まれた子供を食糧難の危機を防ぐ為に“飼育”していたのだった。奇形児として生まれた子供達はいずれ村人達の食糧になる為に、座敷牢の中で人間らしい暮らしを一切させずに飼育されていたのだった。
人肉だと考えたくないから“ウサギ”という俗称を用いていたみたいだった。

「たまにのう。ウサギを抱きたい、ちゅう若者がいるんやなあ。そいで座敷牢に夜這いを掛けにいく。村一番の剛毅な連中だったりしてのう。いるんじゃなあ、別嬪なウサギが。よちよち牢の中を這いまわって糞と尿の臭いを出しているんじゃが。それがまた男の欲をそそってなあ。人間の言葉は一切話さないが、それがいいっていう男達がおったんじゃ。それでウサギに夜這いをかけておったなあ」

祖父は後から、自分もウサギに夜這いをかけた事を白状した。

そういえば、人類史の歴史において食人が行われなかった地域は無かったと聞いた事がある。なので、僕は大人になった今も、その村が特別、異常だったとは考えないようにしている。……というよりも、僕は、祖父が特別、異常だったとは考えないように、している……。

ただ、正直、大人になった今、幼い頃に言っていた祖父の話を聞いて、祖父の人間性を疑っている。勿論、今でも僕にはとても優しい、大好きだったお爺ちゃんなのだ。でも、祖父のどうしようもない差別的な言葉の内容を、大人になった今、理解している。

「“ウサギ”ってのは人間扱いされるべきなのかねえ。人間なのかねえ? わしはのう、眼が無くて生まれたり、脚が無くて生まれていたもんってのは、どうしても人間とは思えんよ。そりゃあ、交通事故でいつ誰が車椅子で生活するようになるか分からんしなあ。人間は緑内障にだってなる。わしだって、年齢を重ねて杖が無ければマトモに歩けないようになった。でもなあ、お前、わしはみなに介護されながら死にとうないんよ」
祖父は生前、そのような事を言っていた。
明らかに差別的な発言が込められていた。

「ウサギ達は夜中に煩いんじゃなあ。夜中になると、格子をつかんでよく騒ぎ続ける。出して欲しいんじゃろうなあ。犬のような叫び声を上げる。人間の言葉は喋れないが、あいつらなりに何か言いたい事があったんじゃろうなあ。そいで、大人達が棒切れ持って、泣き叫ぶウサギをド突き続ける。別に死んでもかまわん。その場合、食べればいいんじゃからなあ。特に顎や腹の辺りを力いっぱい殴ると黙る。……飢餓が酷く、食糧難じゃったからのう……。人間様もろくな飯が食えん。じゃから、ウサギに与える飯は、残飯の代わりに、生きた虫だったり、便所に落とした糞だったりした事もあったのう……」
そう言いながら、祖父は酒を飲んでいた。
ウサギの話をする祖父はとても饒舌で、そして何処か楽しくも哀しそうだった。

「ウサギに夜這いを掛けた奴の中でのう。身体に人間の顔のような痣が出来る奴が多かった。爪で引っ掻いてみたり、刃物で刺してみたり、色々試してその痣を消そうと思っても、消えず、浮かび上がってくるんよ。そして身体中のあちこちに顔が浮かび上がる。ウサギは恨んでいるのかな、それとも恋焦がれているのかなあ。わしには分からん」
そう言いながら、祖父は服をめくって、自らの腹を僕に見せてくれた。
祖父の腹には、くっきりと人の顔のような痣があった。

祖父は寝たきりの老衰を待たずに、肝臓の病気でポックリ逝った。

四十を過ぎた今、僕は身体障害者の介護の仕事をしている。
仕事の内容はかなりハードだが遣り甲斐はある。

これも因縁なのかもしれないなあ、と思った。
幼少期に二度ほど食べた事のある、祖父が故郷から調達してきた“子ウサギ”の肉の味が忘れられない……。牛や豚、ニワトリや羊といった他の色々な肉とまるで味が違う。美味しかった事だけは覚えている。

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