【怖い話】青い秋桜‐コスモス‐

実話の怖い話



花の怖い話を聞いて欲しい。

最初に言っておくが、私は友人の影響で、花絡みで精神病的な性癖、嗜好を持ってしまった。それは今も続いている。正直、私は自分が狂ってしまったと思っている。

私が体験した事に関連している為に、友人の本名は出そうと思っている。ただし、下の名前だけだ。名字は出さない。公平を来たす為に、私も下の名前だけは本名を名乗る事にする。

友人の名は秋絵(あきえ)と言う。
私の名は未果(みか)だ。

それでは、その経緯に関して話をしようと思う。

秋絵は、家が花屋さんだった。

秋絵は自宅にも、沢山の花を育てており、小さな植物園になっていた。珍しい種類の花を植木鉢や花壇で見る事が出来たので、私の彼女の家に行くのが好きだった。

綺麗な薔薇や水連から、少しグロテスクな食虫植物と、色々な種類の草花を見る事が出来た。まるで、不可思議な宝石箱のようだった。

「そう言えば、秋絵の育てている植物の中で、一番、珍しいものって何?」
「うーん、そうね」
秋絵は唇に指先を当てて言う。その仕草が何とも可愛らしい。

「コスモスの変種かな。普通は南米の一部の地域でしか咲かないらしいんだけど。物置小屋を改造した場所に飾ってあるんだけど、見る?」
コスモス……、漢字にすると、秋桜(コスモス)と書き、秋絵と名前がかぶる花だ。ピンク色をした花で、私も好きな花だ。

物置の中に連れていかれる。
所々が改装されており、大量の窓が取り付けられていた。湿気がこもらないように工夫が施されている。そして、物置の中央に、ある植木鉢があった。

「これかな?」

秋絵が言うには、コスモスの種類の一つらしい。
鮮やかな青みがかった紫色のコスモスだった。

外国から種を輸入して育てたもので、この時期に特に満開の花を咲かせるそうだ。

「ちなみに、このコスモスはまだ余り世間で知られてなくて、ネットでも、情報が少ないと言われているわ。そうだ。未果、小さな蕾状のものがあるんだけど、育ててみる?」

私は嬉しくなって、秋絵から植木鉢を受け取った。

家に帰って、自室に飾ってみると、その青みがかった紫色のコスモスは強い存在感を放っていた。試しに私は電灯を消してみる。真っ暗闇だ。まるで蛍光塗料でも塗られたかのように、その花は闇の中で青く輝いていた。

私はしばらくの間、学校が終わると、部屋に籠もりっきりになって、ずっと、この青を帯びた紫色のコスモスに見惚れていた。昼に見ると、真っ青な青空の中を浮かんでいるような気分になる。夜に見ると、深く冷たく優しい深海の底を泳いでいるような気分になる。そして、気が付けば、私の部屋の中にある筆箱、カーペット、ベッドのシーツ、あるいは置いてある小物、パッケージが好きで買った本などは、全て青や紫の寒色ばかりで統一されていた。まるで、部屋の中央にある植木鉢で咲いているコスモスの色に同調するように。

二ヶ月程の間、私は強い幸福感に包まれていた。
現実とも非現実とも付かない場所を行き来して生きているような気がした。

両親や兄弟から、少し病的なものを疑われる眼で見られていたが、成績が落ちたわけでも、酒や煙草を口にしたり、自傷行為に走ったわけでも無かった為に、思春期特有の自分探しの一環、みたいな感じで見られた。

秋絵はというと、また、違う花を強く愛でているみたいだった。
品種は紫陽花(アジサイ)だそうだが、主に紫陽花の咲く梅雨頃ではなく、秋に咲く種類らしい。日本の花屋さんや植物園には多く出回っていなく、知る人ぞ知る花だそうだ。

私はまた、秋絵の家に向かった。
秋絵はその花の為に、特別な部屋を設けたらしい。
彼女の家は植木鉢や花壇だらけだったのだが、更に、その花を部屋に飾る為に、空き部屋を一室使ったとの事だった。少し偏執的だな、と思ったが、実際、私自身も気付けば、秋絵から貰った花の色と同じような色調ばかりのものを自分の部屋の中に揃えている。

そして、私は秋絵に今回の花を見せて貰った。
真っ暗闇の中だった。
秋絵が電灯に灯を付ける。
すると、次々と、天井や壁などがまるでホタルのように光っていた。

「どう? 未果? とても綺麗じゃない?」
秋絵はそう言うと、まるで当たり前のように、その辺りに寝そべる。植物の蔓なのだろうか? まるで、ハンモックのように、花の蔓は秋絵の体重を支えていた。
「こうやって寝そべって、この星々のように綺麗な花達を見る事も出来るよ」
「本当に、これは、……紫陽花なの?」
「そう。でも、少し品種改良しているって聞いた。あ、仕入れ先は秘密ね」
秋絵はそう言って笑う。

「一輪、未果も貰っていく?」
「私はいい。あのコスモスだけで…………」
私は上手く言葉が出てこなかった。
あのコスモスだけで、満足している? あるいは、重荷になっている? 小動物を一匹飼うのが大変なのは飼った人間じゃなければ分からない。しかし、所詮、花だ。花であるにも関わらず、あの青い色のコスモスは私の生活空間を完全に変えてしまっていると言っていい。

「そか。じゃあ、また、明日。学校で会おうね」
「うん。ありがとう」

そう言って、私は秋絵の家を出た。
帰る際に、花々が、まるで人間の顔のように私に視線を向けているような気がした。

家に帰ると、私の部屋は、相変わらず青と紫の小物が増えていった。
カーペットだけじゃなくて、カーテンも青と紫の斑の奴に替えている。壁紙もそのうち、青か紫に染め上げようと考えているが、学生の小遣いでは難しい。なので、貼り付けるタイプのインテリアを探している。天井も青に染め上げたい。何となく、お洒落なデザインの地球儀なんかも買ってきてしまった。

その夜、秋絵からスマホにメールが来た。
もう一輪、素敵な花がある、と。

そして、花の種類は、ガーベラなのだと言う。

裏庭で育てているのだと言う。

私は二つ返事で、見に行く事にした。

秋絵は、学校の帰りに家に来た私を裏庭へと誘ってくれた。
裏庭には花壇があった。

色取り取りのガーベラだと思われる花が咲いている。

秋絵は花壇の傍に置いてあった、じょうろを手にすると、じょうろの中に入っていた水を花壇の中に注いでいく。

「ねえねえ。未果、このガーベラの花はとても珍しいの」
「ふうん。今度はどこの産地のもの?」
私は訊ねた。

「これは私が自分で品種改良したガーベラ。とても綺麗な色をしているでしょう?」

それらは暗くて深い深紅の色をしたガーベラだった。
何だか、花に見とれているうちに、何だか奇妙な気分に陥った。……なるで、花の下の葉や茎、いや……、土の底から何者かに見つめられている……睨まれているような。
そして、何よりも、このガーベラを最初に見た時の第一印象は……食虫植物だった。

ふと。
私は違和感の正体に気付く。
“それ”の一部が、土の中から露出していたからだ。

明らかにそれは、小動物の脚に見えた。

「何これ? 秋絵!?」
私は思わず、声が裏返る。

「ああ。それね」
秋絵はにっこりと、無邪気に笑う。

「このガーベラの堆肥になっている子達。保健所から手に入れてきたのよね」
そう言う秋絵は何処までも笑顔だった。

私は気付いてしまった。
つまり、この赤く美しいガーベラの花の下には、殺処分場から引き取ってきた無数のペット達が埋まっているのだと……。殺処分によって、死んでしまった犬や猫なのか、それとも、生きたまま引き取って、秋絵自らが手に掛けて“肥料”として埋めたのか……それは分からない。……知りたくもない。

「ねえ、未果。このガーベラ、一輪、育ててみる?」
秋絵は優しげな顔をしていた。
私は首を横に振って、口をぱくぱくさせながら、気付けば、逃げるような形で秋絵の家の門の外を走っていた。

今更ながら、秋絵に対して抱いていた感情は“恐怖”であった事を理解した。

それから、私は秋絵となるべく距離を取るようにした。
彼女はドライフラワーを髪飾りにして、学校に来る。ポプリなども持っている。それが一体、何の花なのか。どういった花なのかは分からない。

やがて、冬休みになり、年が明けた。
そして、あっという間に、三月になり、私は三年生になった。大学受験に向けて、ひたすら悩まなければならない年だ。高校最後の年だった。秋絵とは違うクラスになった。

クラスが変わっても、彼女の噂は耳に入ってきた。
“花”をその身に沢山、纏っている為に、嫌でも目立つのだ。

そして、私の嗜好はと言うと、相変わらず、秋絵から貰ったコスモスを自室の中で育てていた。一向に枯れる気配が無い。その頃には、すっかり、部屋が青と紫の寒色で満ち溢れていた。まるで、氷の世界に迷い込んでしまったようだろう。試しに、ネットのSNSに部屋の写真をアップしてみると、様々なSNSユーザーが私と私の部屋を好奇の眼で見て、好奇心のコメントを寄せ、一気に拡散された。だが、コメントの中には“病的だ”、“気味が悪い”、“頭がおかしい”といった趣旨の事も書かれていたのもあって、すぐにその写真を消して、ついでにアカウントごと削除した。……もしかすると、私の事は、ネットの何処かで今でも語り草になっているかもしれないが、検索する気にもなれない。

実際、私の部屋は部屋の中だけに留まらず、世界にあるもの全てが寒色系の、青を基調としたものになればいいと思っていた。本やCD、洋服、あらゆる青色のもの、あるいは紫色のものを眼にすると、それを手にしたくなる。所有したくなる。高校を卒業して、一人暮らしを始めたら、冷蔵庫や洗濯機など、全て青色を基調としたものにしようと思っている。住むアパートの外装も青色だといい。持っている普段着なども、制服を覗いて、下着や靴下まで、全て青か紫を基調としたものでないものは処分した。コンビニや喫茶店などに入る時も、青系の建物でなければ落ち着かない。……ついに、私は両親から、精神科に通う事を提案されたが、断り続けている。私は毎日が憂鬱でもなければ、幻聴なども聞こえない。ただ、青に固執する、といっただけだ。……正直、日常生活には多少の支障をきたしているのだが……。

部屋の中の植木鉢で咲いている、青いコスモスは、適当に水をやるだけで虫も湧かずに咲き誇っている。私はこの花を見て、中毒的なまでに癒やされる。

秋絵の方は、噂ばかりは聞く。
いわく、色々な人間を家に連れ込んで、花をプレゼントしては、花をプレゼントされた人間はかなりの変人になり、羽虫を食べるようになったとか、眼球が何故かカラーコンタクトも付けていないのに赤っぽくなったとか、車に轢かれて潰れた動物の死体を集めるのに夢中になったとか、そんな話ばかり聞かされるのだが、もはや、私には関係の無い事だ。……秋絵から貰った、青いコスモスを除いては、だが……。

さて……。
これが、現時点で、私が体験した話だ。
周りからは異常者扱いされているが、私の中ではもう“普通の感覚”になってしまった。

志望する大学も、外装が一番、青っぽい場所で選んだ…………。

大学を卒業した後の就職先も、制服が青色か、建物が青っぽい場所を選ぼうと考えている……。



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