【怖い話】神屋さんの家

短編の怖い話



私の地元から少し離れた場所には『神屋(かみや)さんの家』と呼ばれている廃屋がある。
そこは、謎の怪人物が住んでいると噂されていた。
その怪人は、幽霊なのか、妖怪なのか、それとも、ただの廃屋に住み着いたホームレスの異常者なのかは分からない。ただ、とてつもなく危険で異常な人物だという噂があった。
下手な心霊スポットよりも、遥かにヤバいところらしく、神屋さんの家なる場所は、地元では近付いてはいけない場所、と聞かされていた。

その家は悪臭が漂っており、特に何かの腐った臭いが酷いと聞かされている。
近隣からのクレームも度々あるらしいが、その廃屋の周辺は空き地も多いらしいので、今の処、行政の対処は進んでいないという事だった。

私は大学生の夏休みに、友人数名と一緒に“神屋の家”なる場所へと肝試しに向かった。
その廃屋の庭には、大量の動物の死体が転がっており、白骨化した犬猫などが転がっていると聞かされている。

少し遠い場所だった為に、友人の一人であるセイジが車を出してくれた。

私と友人達は、その神屋の家なる場所の近くに車を停めて、廃屋へと侵入する事を試みた。
怖い雰囲気を楽しみたいという事で、深夜の23時に、その場所に着いた。

廃屋の玄関のドアは、もちろん、鍵が掛かっていなく簡単に開いた。

家の中に入ってみると、中から、猛烈な異臭がした。

台所の流し場には、大量の魚の骨が詰め込まれていた。蛆らしきものが這いずり回り、蠅が飛び散っている。辺りは酷くカビ臭く、壁全体を黒カビやら青カビやらが覆っていた。そこら中にペットボトルの容器は、コンビニ弁当の容器などが散乱している……。

「おい、やっぱり、やばそうな場所だな……」
私は友人のショウタに言った。

「ああ、そうだ、スマホの明かりだけじゃ心許なかったから、念の為に懐中電灯を持ってきたぞ、ユウト、使うか?」
ショウタは私に懐中電灯を渡してくれた。

真っ暗な闇の中、懐中電灯の明かりを照らしていく。

部屋の奥に入ると、明らかなゴミ屋敷で、生活臭がした。……本来なら、人間は住んでいる筈はないのだが……。薄汚れた壁には、奇妙な図形と謎の文字がびっしりと書き込まれている。血の跡のようなものもこびり付いていた。

ゴミ屋敷に埋もれる形で、何故か冷蔵庫を見つけた。電気は明らかに通っていない。ショウタはおそる、おそる、その冷蔵庫を開ける。

「おい……、なんだよ、これ…………」
ショウタは絶句していた。
私とセイジ、ノリトも冷蔵庫の中を覗き込んだ。
中には、食べかけの犬猫の死体が入っていた。おそらく、生のまま口にしたのだろうか、それらはパックの中に入れられていた。当然、電気の付いていない冷蔵庫の為に、異臭を放っている。大量の虫が冷蔵庫の中には集まっていた。……パックに入れられているのは、虫に食われないようにする為なのか……。

「なあ、上から、何か変な音が聞こえないか……?」

二階から、奇怪な物音がする。
がりがり、がりがり、と何かを齧っている音だ。
ネズミだろうか……? それとも、他の別の動物……?
正体は分からない。

この神屋の家は、どうやら、三階建てみたいだ。
四人で来た為に、誰か二階へと一人で行ける猛者はいないか、という話になった。

私達の中で、一番、年下のノリトが上に行ってみると述べた。セイジが階段を見つけてきた。
ノリトがおそるおそる、二階へと上がる。
私達三人はしばらく待っていたが、なんだか妙に年下の後輩である彼一人を行かせた事に罪悪感のようなものを覚えて、続いて、二階へとみなで上がる事にした。

私が先頭になって、階段を登っていく。
階段は妙に軋んでいた。

二階の奥の部屋の前で、ノリトがうずくまっていた。

「おい、どうしたんだよ? ノリ」
ショウタが訊ねる。
ノリトは人差し指を口に当てて、俺達が大声を上げるのを止めようとする。彼は泣きそうな顔をしていた。
部屋は半開きになっている。
私が真っ先に近付いて、部屋の中を覗いた。

私は言葉を失う。
…………、なんと、何者かが部屋の中に座っていた。
どうやら、こちらには気付いていないのか、あるいは気付いていても、気にしていないのか分からないが、その人物はひたすらに、くちゃくちゃと、何かを口にしていた。
扉の隙間から、その人物を見ていた。
年齢は六十歳、七十歳くらいだろうか。
ぼろぼろの着物のようなものを纏っていた。腰元まで伸びた白髪だった。性別は男なのか、女なのか分からない。その人物が口にしていたものは、なんと、板切れだった。近くにハチミツの瓶が置かれており、板切れにハチミツを塗って齧っているみたいだった。

……私と、その人物は眼があった。
その人物が“神屋さん”と呼ばれている、この家の主である怪人なのだろうか。
その怪人物は、にたり、にたりと笑って、横に置いてあった、何かを手にした。
それは、鉈だった。

私は声にならない声を上げて、必死で走って、二階の階段を降りていた。私に続いて、他のメンバー達も階段を降りる。みなで走って、廃屋の外へと出た。
途中、私は廃屋の庭で、あるものを目にした。
行く時は物陰か何かに隠れており、分からなかったが、確かに庭にある異常なものを見つけてしまった。

それは、首から下が埋められて頭部だけになった、犬や猫だった。
まるで、スイカやカボチャのように、犬猫達は地面に埋まっていた。まだ、生きており、小さく鳴いていた。

私達はセイジの運転する車へと戻っていた。
そして、エンジンをかけて、車を出す。

運転していて、すぐの事だった。

ノリトがいない事に気付く。
すぐに、セイジが車をUターンさせようとするが、ショウタが動転したような声で止めた。

「お、俺、あの化け物に、後ろから鉈で切り付けられそうになった…………」
ショウタは半泣きになっていた。
それを聞いて、なおさら、ノリトを探しに行かなければならない。
セイジは警察に電話しようと言った。
そして、警察に連絡するが、警察官達は私達の話を聞いて、呆れた声で取り合ってくれなかった。むしろ、そんな廃屋に肝試しなど行うような事をするな、と注意された。

セイジは電話を切る。

「どうする? ノリトの事……」
「きっと、逃げられたんだよ、明日になれば、俺達のLINEに怒りのメールを寄越してくるって…………」

そんな感じで、私達はその日は、各々、自宅に戻る事にした。
……ノリトは、きっと、まだあの廃屋の中にいるんじゃないか、という疑念を必死に考えずに……。

翌日になっても、三日経っても、ノリトからの連絡は無かった。
やはり、どう考えても、おかしい……。
警察は動いてくれないという事で、私達は、もう一度、神屋さんの家にノリトを探しに向かう事にした。

この前は肝試しという事で夜中に向かったが、今回は真昼に行く事にした。
太陽の照らされる真昼に行ってみて気付いた事だが『神屋の家』の付近は、真昼でも閑散としており、不気味な空気を漂わせていた。

神屋さんらしき人物に襲われた為に、護身用として、セイジは木製のバットを手にしていた。
私達三人は、神屋さんの家の敷地内へと入る。

庭の辺りには、犬猫の鳴き声が聞こえてくる……。首だけ出して、埋まっているのだろう……。
ショウタがセイジからバットを借りて、真っ先に入る事になった。
彼は扉を開けて、中へと入っていく。

「一階には人の気配が無いな…………」
ショウタは少し口ごもっていた。

「一階、には?」
セイジは訊ねる。

「ああ…………。一階には……、階段の上、上の辺りには誰かいるような音がする。…………気のせいかな……。ノリトの声にも聞こえるんだけど…………」

私達三名は一緒に、二階へと上がる事にした。

二階には、謎の人物…………、おそらく、この廃屋の主である“神屋さん”と思われる人物はいなかった。どうやら、人の気配は三階から放たれている。

物凄い重圧のような空気が漂ってくる……。

「ノリトがいるかもしれない。置いて帰ってしまった俺達の責任だ。とにかく、俺が先に見てくる」
ショウタは三階へと続く階段を見つけて、真っ先に登っていった。私とセイジも彼の後に続く。

三階にはボロボロに穴の開いた障子があった。また、壊れて半壊している襖も見えた。襖の奥には、誰か人がいるみたいだ……。

ショウタは安堵したような顔をしていた。
同時に、少し震えており、ガクガクと言葉を失ってもいた。
ショウタは私達に向かって振り返る。

「ノリト、見つけたぞ……」
私とセイジの二人は駆け上がって、襖の奥を見る。

中には、ノリトがいた。
ノリトは猫用の首輪を付けて、まるで四足動物のように這いずり回り。そして、くちゃくちゃと、猫用の皿に入っている何かを口にしていた。
ノリトが口にしているのは、魚だった。虫が集り、明らかに腐敗している魚だ……。

そして、ノリトは俺達の方を見る。
ノリトは焦点の定まらない目をしていた。……まるで、俺達の存在が見えていないかのような、俺達の事をまるで知らないかのような……。

「ノリト……、とにかく、無事で良かった……」
ショウタがノリトに近寄って、彼を連れて帰ろうとする。
ノリトは猫のような鳴き声で吠えると、ショウタの腕を勢いよく引っ掻いた。

「お、おい、どうしたんだよ、ノリト…………、なあ、帰ろう、な? 帰ろう……」

セイジも元は和室と思われる部屋へと入っていく。畳は黒ずみ、ガリガリと動物が引っ掻いた爪痕ばかりで畳の床は傷だらけだった。

突然の事だった。
物陰の死角から、何者かが立ち上がって、セイジへと襲い掛かる。

あの白髪の性別不明の老人だった。この家の主である“神屋さん”なる人物だろう……。老人は手にした鉈でセイジへと切り掛かる。セイジの右腕は勢いよく切り裂かれて出血していた。

老人の姿を見て、ノリトが、くぅーん、くぅーん、と、まるで自らの主人を見るかのように猫撫で声を上げていた。私はまるで理解出来ない光景を見ていた。

気付けば、私達はまた必死で逃げ出していた。
セイジは泣きながら走っていた。彼が付けられた傷は思いの他、深く、血が止まらず、車の運転はショウタが行う事になった。

それからの記憶はあまり定かではない。
セイジは腕からの出血が止まらなくて、病院に行ったと聞く。
ショウタは警察に電話をしたが、やはり、取り合ってくれなかった。

後日、セイジの腕は、緊急で病院に行ったにも関わらず、酷く膿んでいて、切断寸前までの状態になっていた。二年経過した今でも、障害が残ったらしい。
ノリトがあの家でどうなったのかは分からない。
結局、あの廃屋の主である“神屋さん”が一体、何者なのか今でも分からない。

風の噂によると、あの廃屋の付近で、大学生くらいの年齢の男が、猫の首輪を付けて四つん這いになり、生ごみを漁っている光景を目にしたという噂が耳に入るように事になった。

あれから、二年近く経って、就活の時期になったが、あの不気味な廃屋での肝試しの事は私とショウタ、セイジの三名の心に深い傷を残し、同時に、戻ってこれなくなったノリトに対する罪悪感の気持ちでいっぱいに満たされている…………。



短編の怖い話

1 個のコメント

  • 読了しました。
    怖かったです。
    切り裂かれた右腕の描写が妙に生々しくて不気味さを際立たせていたように感じました。

    どこにいったか分からないのではなく車ですぐ行けるような距離にまだ友人が異常な状態で住んでいるという
    もやもやも好きです。

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