【怖い話】呪いの曲の作成

短編の怖い話



聞くと呪われる曲があると、クラス中で噂になっていた。
吹奏楽部の誰かが、その曲を演奏して、無残な姿になったとも聞いた。

ちなみに、聞いた者が自殺する事で有名な音楽は『暗い日曜日』というものがあるが、あれは、僕も聞いてみて、本当に暗い気持ちが取れなかった。酷く落ち込んでいる時に聞いたら、衝動的に自殺するのも何となく分かるような気がした。
つまり、呪いの音楽の実例は存在する。
音楽で、他人を死へと追いやった実例は存在するのだ。

なので、クラスで噂されている、聞くと呪われる曲、というものが一体、何なのか知りたくなった。

「おい、タツル。今日、放課後、暇?」
幼馴染のセナが、俺に声を掛ける。
彼は顧問が風邪を引いて、サッカー部の部活が休みらしい。
なので、ちょうど、噂になっている呪いの曲に関して、一緒に調べてみようという事になった。

そして、俺達二人は、吹奏楽部へと向かった。
吹奏楽部のメンバーは、各々、楽器の練習をしていた。
セナは、積極的に彼らに話し掛ける。
すると、メンバーの中から、意外な答えが返ってきたみたいだった。

「その呪われた曲、ってのは、数十年前に演奏した生徒が死んだ事件を、今になって、誰かが噂で流したらしいぜ」
セナは、少し拍子抜けた、といったような顔で言った。
「そうなの?」
「ああ、そうみたいだ。なんか、噂の出所って、案外、大した事無いんだな。で、たまたま、どうも数十年前に吹奏楽部のメンバーだった奴が病死か何かしてさ。そいつが練習していた曲が、シューベルトの『魔王』っていう、有名な曲で、割と怖い奴なんだけどさ。馬に乗った父親が子供を連れて、夜道を駆けていくんだけど。曲の最後に、子供が死んでしまう内容なんだよな。それもあって、いわくが付いたんじゃねぇの?」
そう言いながら、セナは、スマートフォンからシューベルトの『魔王』を流す。

「確かに歌詞は怖いね。この動画の演奏者も迫力あるよ」
「だろ? ちなみに、こっちが暗い日曜日の逆再生の奴」
そう言うと、セナは動画を変え、不協和音を流す。
僕は、思わず、ぷっ、と吹き出す。

「なんだ。やっぱり、噂って大した事無いじゃん」
「それでさ、俺、思ったんだよ」
セナは満面に、少しだけ悪意を含んだ笑みを浮かべていった。

「だから、作ってしまおうかなあ、って。俺がさ。呪われる曲。興味あるんだよね。俺、ギターとピアノ引けるし、今、趣味でパソコンでの楽曲作成に凝っている。だからさ、俺が呪われた曲を作ってやろうかって考えているんだ」
「……………へえ……?」
僕は、セナの話を聞いて、思わず呆れた。
彼は、そういう部分がある。
何処か、ニヒルな処がある。
昔からそうだった。
彼は花火で小動物を殺害するのが大好きだったし、線路に石を置いてみたい、とか、飛び降りがみたいとか、小学生の頃から言っていた。
これはもう、セナの発作みたいなもので、言い出したら、彼ならやるだろう。

「じゃあ、楽しみにしているよ。呪いの音楽、作ってみてよ」
「ああ。制作者は俺だっていうのを隠して、クラスに新たな噂を流してみる。こうさあ、七不思議を自分で作ってやるのって最高じゃん? 学校の怖い噂をさあ」
そう言うと、セナと僕は学校を出た。お互い、帰路は別々の方向だ。

そして、夜中の一時にセナからLINEで、連絡が来た。
“呪いの音楽を早くも作ってやった”、と。

その後、セナからデータが転送されてきた。
僕は、さっそく、その曲をスマホで再生してみる。
それは、とてつもなく不気味でおどろおどろしく、そしてかなり気味が悪く、聞いた後に後味が引くものだった。金切り声、嗚咽、嘔吐の音、泣き声、雨の音色、何かをシャベルで掘り起こすような音など、様々な不快な音が混ざっていた。……とても、音楽とは呼べる代物ではなかった。

……これでも、まだ、未完成なんだよね。
そんな事が、LINEのメッセージで追加される。

更に、セナは、ろくでもない事を思い付いたらしく、心霊スポットの実況配信者が拾った幽霊の声などを、音楽の中にミックスすると言い出した。加えて、ネット上で有名になっているCDの中に入っている幽霊の声らしきものも、入れる、と。

そして、セナは、最凶の“呪いの音楽”の制作に取り掛かっていた。
正直、妄執的としか思えなかった。既に、彼は何かに取り憑かれているとしか思えなかった。

そして、その日のうちに、セナの作った最凶の呪いの音楽は、複数のネットの動画投稿サイトにアップされていた。
計八分超ある。
昔、セナから聞かされたヘヴィメタのジャンルの曲で、それくらい長い曲があったが、違ったのは、シャウトやノイズ音も多様するが、とてつもなく美しい旋律を奏でていた、聞かされた、そのヘヴィメタの音楽と違って、セナが制作したそれは本当にタダの不協和音でしかなかった。ひたすらに不快な音ばかりが続いていた。
それでも、投稿して、すぐに視聴者の数は伸びたらしい。
これで、小金でも稼ごうかな、とセナはLINEで呟いていた。

しばらくして、セナの作った音楽は、学校内どころか、全国的に有名になった。
ただ、あれから変わったのは、セナが神隠しにあった事だ。
彼は、完全に失踪してしまった。

制作者が不明、制作者が事故死、制作者が自殺、制作者が殺された。
何処から入手されたのか分からないが、セナが行方不明になった事は、すぐにネットで拡散されていた。

そして、セナの作った音楽を最後まで聴いた者の中には、本当に心霊現象に遭遇したという投稿が大量に寄せられていた。僕は、その情報を知った時、全身から悪寒がした。
 
それから、一ヶ月くらいして、セナからのLINEのメッセージがあった。

‐今は、別の世界にいる。此処は曲制作に心地よい。俺は今、手も足も無い。眼鼻も無く、声も出ない。けれど、とても幸福だ。それに音楽は作れる。俺は此処にいるよ、後、一週間もすれば、新作を動画に投稿出来る。‐
僕は、そのメッセージを見て、思わずスマートフォンを勢いよく壁に投げ付けた。
液晶画面に亀裂が入るが、構わなかった。

一週間後に、新たな呪いの音楽が動画サイトに投稿されて、騒がれていて、また心霊現象に遭遇したという逸話が絶えなかったが、僕はこれ以上、この件と関わるのを止めにした。ただ、セナの事だから、案外、本当に向こう側でも、幸せなんだろうなあ、と思った。最高のスタジオ環境なのだろうから。

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